はじめに
令和6年5月、家族法(民法)が大きく改正され、令和8年4月に施行されました。その柱のひとつが、新たに導入される 「法定養育費制度」 です。
これまでの調査では、離婚した父母の半数以上が、養育費について何の取決めもしていないと言われてきました。取決めがなければ、別居している親に対して養育費を1円も請求できない――これが従来のルールです。その結果、ひとり親家庭の経済的な困窮が、長く社会的な課題となってきました。
法定養育費制度は、こうした状況を改めるため、「取決めがない場合でも、最低限の養育費は法律上当然に発生する」 という新しい発想を採用しています。本コラムでは、その仕組みをなるべく簡単にご説明します。
1. 法定養育費制度の基本的な性格
法定養育費は、父母が養育費の取決めをしないまま協議離婚をした場合に、法律上当然に発生する権利です。
もっとも、本制度はあくまで 「つなぎ」 としての役割を担う、暫定的・補充的な仕組みです。離婚時にすでに父母間で養育費の合意があれば法定養育費は発生しませんし、後の調停や審判で具体的な養育費の金額が定まれば、その時点で法定養育費はその役割を終え、支払は終了します。
2. 法定養育費を請求できるのは誰か
法定養育費制度のもとで請求権を持つのは、「父母の一方であって、離婚の時から引き続きその子の監護を主として行うもの」 です。
ここでいう「監護」は、法律上の親権や監護権の有無を問いません。現実に子どもの身の回りの世話を主として行っているという実態があれば足ります。離婚に伴って子どもを引き取り、同居を続けている親――典型的にはそうした方が請求権者になります。
なお、離婚後に子どもが他方の親のもとへ移った場合には、その時点から将来に向かっての請求権は失われます。ただし、それまでに発生した未払分の養育費については、引き続き請求することが可能です。
3. 法定養育費の金額と支払時期
法定養育費は、離婚した日の属する月から支払が始まり、毎月末日が支払期日となります。
金額は法務省令により一律に定められ、子1人につき月額2万円とされました。
- 子ども1人 → 月2万円
- 子ども2人 → 月4万円
- 子ども3人 → 月6万円
この金額は、消費支出の統計や生活保護の基準、現行の養育費算定表などを踏まえ、「最低限度の生活を維持する」ために必要な標準的費用として設定されたものです。
裏を返せば、法定養育費制度はあくまで最低保障ラインを画するものにすぎません。家庭ごとの実情に応じたより適切な養育費の金額を確保するには、やはり父母間での協議や、家庭裁判所の調停・審判による取決めが必要になります。
4. 支払う側(債務者)への配慮
法定養育費は、支払う側の資力を問わず、法律上当然に発生します。とはいえ、すべての方が同じ経済状況にあるわけではありません。そこで、法定養育費制度のもとでは、支払義務者に過大な負担が生じないよう、次のような保護措置が設けられています。
(1) 支払い拒絶権 支払能力を欠いていること、または支払うことで自身の生活が著しく窮迫することを証明できれば、支払を拒むことができます(新民法766条の3第1項ただし書)。
(2) 家庭裁判所による免除・猶予 後に養育費を定める審判を行う際、裁判所は債務者の支払能力を考慮して、すでに発生した法定養育費の全部または一部を免除したり、支払を猶予したりすることができます。
(3) 事前の審尋 強制執行(一般先取特権の実行(差押え))の場面では、執行裁判所が支払義務者に事前に意見を聴く「審尋」を行えるとする規定も新設されました。
おわりに
法定養育費制度は、これまで取決めの空白に置かれてきた多くのお子さんに、最低限の経済的な支えを届けるための仕組みです。
もっとも、本制度はあくまで暫定的・補充的な性格のものですから、本来であれば、父母間で十分に話し合い、お子さんの実情に合った養育費の額をきちんと取り決めておくことが望ましいといえます。
離婚に伴う養育費の取決めや、すでに離婚された方の養育費の請求・回収について、お悩みがありましたら、広瀬通あかつき法律事務所までお気軽にご相談ください。詳しくはお問い合わせページからご連絡いただけます。
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